墨弁(ぼくべん、墨辯)または墨経(ぼくけい)は、中国の古典『墨子』の中の6篇(経上篇・経下篇・経説上篇・経説下篇・大取篇・小取篇)の総称。
術語事典・学説集のような形式で、幾何学・光学・力学・論理学(中国論理学)等を論じる。中国科学技術史・中国哲学史の重要資料である一方、簡素な記述や伝存状態の悪さから、『墨子』の中でも難解な箇所として知られる。
概要
著者については墨翟・歴代鉅子・墨家三派・別墨など諸説ある。
基本的には以下のような形式で書かれている。
- 経上篇と経下篇 - 簡素な短文(主に術語の定義文)の箇条書き。
- 経説上篇と経説下篇 - 経上篇と経下篇で箇条書きした短文に対する解説文(注釈・言い換えのような文)の箇条書き。
- 大取篇と小取篇 - 学説の枚挙。
「経・経説」と似た形式は、近い時代の他の文献にも見られる。例: 『韓非子』十過、および内儲説上などの「儲説」諸篇、『管子』乗馬・宙合・心術上、および牧民解などの「解」諸篇、思孟学派の『五行』、『黄帝四経』の『経法』君正・論・亡論など。「経・経説」の成立順序(「経」が先に書かれたのか、それとも同時に書かれたのか)については諸説ある。
受容
西晋の魯勝は、墨弁の注釈書を著したが、叙文だけ残して散佚してしまった。「墨弁」という呼称はこの叙文に由来する。
清代には、王念孫・畢沅・孫詒譲らが『墨子』全体の校訂・注釈を進めた。特に乾隆55年(1790年)には、張恵言が『墨子経説解』を著している。
民国初期の1920年代前後には、胡適・梁啓超ら多くの学者によって、西洋の論理学等との比較を通じて名家とともに再評価され、多くの研究が発表された。ただし、この時期の研究は「墨子インド人説」に象徴されるように、実証性よりも斬新さを競うような研究が多かった。
関連項目
- 墨家
- 名家 (諸子百家)
- 中国における論理学
- 中国の数学
- 中国の科学技術史
日本語訳
参考文献
- 井ノ口哲也「「経」とその解説――戦国秦漢期における形成過程――」『中国出土資料研究』第2号、1998年。
- 高田淳「墨経の思想 : 経上・経説上について」『学習院大学文学部研究年報』1963年。 国立国会図書館書誌ID:764856
- 高田淳「墨経の思想 : 経下・経説下について」『東京女子大學論集』1964年。https://twcu.repo.nii.ac.jp/records/24690。
- 楊寛著、西嶋定生監訳、高木智見訳「第二章四 墨子と墨経」『歴史激流 楊寛自伝 ある歴史学者の軌跡』東京大学出版会、1995年。ISBN 978-4-13-023044-5。
- Fraser, Chris (2003), “Later Mohist Logic, Ethics and Science After 25 Years”, in Graham, A.C., Later Mohist Logic, Ethics and Science, Chinese University Press, ISBN 978-9622011427, http://cjfraser.net/site/wp-content/uploads/2009/05/grahamintro.pdf
脚注
外部リンク
- ctext.org 墨子 - 中国哲学書電子化計画
- Mohist Canons (英語) - スタンフォード哲学百科事典「墨経」の項目。
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